歴史小話
蛸杉
鈴鹿山系の主峰である御在所山や釈迦岳などの急峻な山地には、蛸杉(たこすぎ)と呼ぶ天然杉が自生しています。杉は日本特産といえる木で、その分布は鹿児島の屋久杉にはじまり、北は青森県の津軽杉が北限で日本のみどりを代表する樹木です。杉は温暖で雨の多い土地を好み、寒い北海道では天然杉は育たないと言われています。御在所山は屋久島と津軽との間のちょうど日本列島の真ん中にあたり、しかも寒地と暖地の接点で、この異形の蛸杉は、植物の生態学上からも貴重なものと言えます。
杉は普通にまっすぐ上へ一本立ちする性質のものですが、御在所山の杉はほとんどが根元で七、八本に分かれて、まるで蛸(たこ)が足を広げたような形をしています。なぜこうなるのか、それは幼木のとき上から雪に押さえつけられ、氷に閉ざされ、たいへん悪条件の中で育つので、こうした異形の杉が生まれたわけです。いわば豪雪、寒冷、落雷など自然の災害に耐えてきた受難の姿がこの杉です。
昔の樵人(そまびと)は何百年も苦難に耐えてきたこの杉に畏敬の年を抱いて、おのやのこぎりを入れずに大切に残してきました。湯の山の御在所ロープウエイ山麓駅の下にも蛸杉の巨木がありました。田光から移植された八風中の三本杉もこの蛸杉です。御在所山の頂上近くに「たこち谷」と呼ぶ地名の谷があります。この名のおこりは、蛸杉が自然に多く生える地形からその名が付けられたものと思われます。
